イラスト:キャミソール姿の若い女性
イラストを描いていると、ときおり
“服の神様”に後ろから肩を叩かれる瞬間がある。
「おい、そこ違うぞ」と囁かれる、あの感じだ。
私の場合、その神様は
奥さんの姿をして現れた。
ある日、キャミソールのイラストを描き、
得意げに見せたところ、奥さんがひと言。
「これ、紐が太いからキャミソールじゃないよ」
……そうなのか。
紐の太さひとつで、そこまで世界が変わるのか。
気になって調べてみると、これが意外と奥深い。
キャミソールは、
フランスの下着文化をルーツに持ち、
繊細で華奢なストラップこそが本質らしい。
一方、タンクトップは、
アメリカのスポーツウェアが起源。
太めの肩紐で、ガシガシ動けることが正義である。
つまり私が描いた
“太めのキャミソール”は、
歴史的にも文化的にも、
完全にアイデンティティ迷子だったわけだ。
奥さんの指摘は正しかった。
そして私は、
服飾という深い沼に片足を突っ込んだのである。
とはいえ、
イラスト販売サイトの世界は驚くほど大らかだ。
キャミソールのイラストにも、
タンクトップのイラストにも、
両方のキーワードを付けておくのが一般的。
検索する側も、
そこまで厳密に区別していない。
歴史は深いのに、検索はゆるい。
このギャップが、なんとも面白い。
キャミソール(cami)
フランス語の chemise(シュミーズ) が語源。
どこか優雅で、
バターの香りが漂ってきそうな響きである。
タンクトップ(tank top)
“tank suit”(昔の水泳用ウェア)から派生。
こちらはアメリカらしく、
筋肉と汗の香りがしそうな語感だ。
同じ「肩紐のある服」でも、
文化の匂いはまったく違う。
イラストを描くたびに、
こうした小さな発見がある。
紐の太さひとつで、
文化が変わり、歴史が変わり、
そして奥さんのひと言で、
私の知識も静かに更新されていく。
今日もまた、ひとつ
“イラストうんちく”が増えた。
人生とは、
どこに学びが落ちているかわからないものだ。